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インサイドアジアでは、在中18年目の作家・谷崎光とアジアの精鋭インサイダーたちが”本当”をお伝えします。

中国より実は過酷な日本人の働き方、会社に娘を殺されないために 

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ある中国企業では、3月8日の世界女性デーにイケメンを手配し出勤する女性に花を配った。撮影 HN

若い女性に仕事が

■原因の自殺が増えている

 

 日本に一時帰国して参加した同窓会で、友達のお嬢さんの話になった。確か学生時代に留学し、それから東京で広告関係に就職したはずである。

 

「お嬢さん、元気でやってる?」

 

「それがね。心配になって見に行ったら、毎日、会社の床で寝ているような生活で。もうほとんど精神的にもやられてね。辞めたのよ」

 

「あー、あの会社ね。あんなのマジメにやったら死ぬよ。いいかげんでちょうどいいのに」

「……娘はできないわ。家ではウソついたりしたらシバく、ぐらいの勢いで育てたからなぁ」

 

 友人はご主人ともに、“お堅い仕事”で、誠実に生きてきた人である。

 

“まじめに”“一生懸命に”“誠実に”

 

 古き良き日本の美徳で仕事をすると、男でも過労死するのが日本だが、若者、特に「女性活躍」のかけ声のもとで、女性に過酷な仕事現場が広がっている。

 

 厚生労働省の統計によると、過去4年の間に、29歳以下のグループを見ると、仕事が原因の自殺が45%増え、女性従業員の自殺件数も39%増加した(“日本の過労死問題が深刻化、女性が増加”人民網 日本語版)。

 

 電通の高橋まつりさんの件もまだ解決はしていない。

 

 彼女が受けたパワハラに、

「あれ、私のことかと思いました」

というマスコミ業界の女性は多い。

 

 知人のTV局に入社した女性は、

「毎日、男性社員から“お前がオレと同じ仕事をしているというだけで腹が立つ”と言われた」と言っていた。

 

 私が就職をしたのは、30年も前だが、高橋まつりさんのニュースを聞いた時、一歩間違えば同じだったな、と思った。

 

■私を救った

■オカンの鶴の一声

 

 私が就職したのは1987年である。

 

 就職先は、ダイエーと中国との合弁貿易商社である。ダイエーの旧本社ビルが大阪にあり、研修が終わるとそこに出勤となった。となりはローソンだったのを覚えている。

 

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新入社員時代の筆者 右端

 当時、第一次中国ブームと迫ってきたバブルで、とにかく忙しい。

 

 若い社員たちは終電まで残業が当たり前で、私も出勤初日からそうだった。そしてそれが2〜3日、続いたあとである。

 

 突然、オカンの怒りが爆発した。

 

「なんでそんな毎日遅いの?」

 

「忙しいのよ。みんな遅いよ」

 

 今、思うと、全然みんなではなかったのだが、そう錯覚していた。

 

「新入社員がそんな働いても、役に立ちません。帰ってらっしゃーい!!!会社に不慣れで疲れているし、体壊すだけ。そもそも朝も1時間早く出てるでしょ。それよりも定時に帰って毎日、絶対遅刻せず出勤し、時間内にしっかり働きなさーい!」

 

 母親はまじめな人だったので、非常に意外に感じた。

 

 

 当時、“不文律”で新人たちは1時間早く来て、簡単な掃除や灰皿や茶碗を洗ったりしていた。あと、空港への単なる出迎えなど、人件費がタダだと思うからやらせるいろいろムダな仕事があった。

 

 実家は会社経営をしており、母も共同経営者である。

 

 当時、女性はやはり「雇用均等法」などで、働くことを煽られていたが、オカンも働かせる立場の方なわけで、企業の手の内がわかる。

 

■「残業しません宣言」をしたら

■大騒ぎになった

 

大阪では自分の会社の社長より、オカンがえらい。

 翌日、会社に行き、「残業しません宣言」をしたら、大騒ぎになった。

 

 上司が血相を変えて上に相談に行き、エラい人に順番に呼ばれてコンコンと説教されたのを覚えている。

 

 しかし当時、日本社会を最初からあきらめ切っており、“意識低い系”であった私は、何を言われてもなんのその、定時は無理でも、まあ半年ぐらいは基本ムチャはせず帰った。

 

 若い男性たちは、逆らわずダラダラ仕事と残業をし、体力を温存していた。

 

大手商社勤務の父親から、「サラリーマンは力を出し切るな!」とか「福利厚生を使いまくれ!」とか、教えてもらったという男性もいた。

 

 一方、同期の女性は、中国語と合気道ができ、やる気満々。上司の「残業したら仕事も早く教えてやる」の言葉に騙され?日々、本当にムチャな残業していた。

 

 そして3ヵ月目ぐらいから体調を崩すことが多くなり、1年で退職した。

 

 これをやっぱりオンナは、というのは大間違いである。

 

 上司のマネジメントが悪く、経営意識がなかったのである。

 

 人は採用にも育成にもコストがかかる。いま思っても、彼女は非常にその仕事に向いており、スキルもやる気も充分で、最初の1〜2年さえうまく乗り切れば、大きな戦力になっただろう。

 

 会社自体のマネジメントもひどかった。のちに社員はずいぶん増えたが、当初の50人ほどの社員のうち、20〜30代の15人ほどだけが、とにかくフル稼働している。他は「いるだけオジサン」が多い。

 

 ダイエーが自社の商品の輸入だけでなく、中国へのスーパー進出を狙っても作った会社で、中国の対外貿易局のエラいさんがいたり、なぜか隣に突然北京放送のアナウンサーが座っていたこともある。

 

 いま思うと、トップは自分のコントロールの効く若手だけに全部の業務を被せていたのだと思う。

 

 社長はダイエーの社長だったが、普段、社にいるトップは、ダイエーの店長時代に、パートさんに子どもの運動会を休んで出勤するように強要し、訴訟されたというツワモノである。

 

 “武勇伝”として自慢げに話す彼に、

「で、ご自身のお子さんの(運動会の)ときはどうでしたか?」

と、聞いたら、

「おお、オレのときはな、ちょうど仕事の都合がついて、全部、参加したんや」

 

「今後、こいつの言うことは絶対信用するまい」と思ったのを覚えている。

 

女子の方々、上司のいう、むやみなガンバレ! はこんなものである。

 

 港湾倉庫に行くと、相手の中年男性が女性の私だけ名刺を渡すのを“無意識に”飛ばしたりする時代だったが、そもそも社会への期待値がゼロのため、あらゆることが逆にスルーできた。

 

 会社は、男性は各年齢層がいるが、当時は女性は若い社員しかいない。日本の会社は「要はキャバクラなんだな」と思ったのを覚えている。

 当時の日本の会社は(今も?)、どこも“おじさんによる、おじさんのための、おじさんの天国”である。

 奥さんより若い女性がお茶も入れてくれ、よく聞く不倫も、おじさんによったら、会社のお金で、自分で働く愛人を囲っているぐらいにしか思っていないだろう。

 過去のおじさんは会社から帰れないではなく、帰りたくなかった疑惑が濃厚である。

 

 

 会社員のうちはバカなセクハラはなかった。ただし、それは私の仕事相手が中国人か、日本ではダイエーへの納入業者がおもだったからである。

 

 それでも仕事がおもしろくなり、休日などに為替を見ていたりすると、私の父親はがんばっている娘をホメるどころか、

 

 

「あー、それで誰が儲かるんや。遊べ、遊べ」

 

 家族にはずいぶん救われた。

 

 さすがにしばらくすると残業も増えたが、今思ってもムダな仕事が多かった。なのに、大阪梅田の中央郵便局まで往復1時間かけて行き、中国へ発送していた荷物を、交渉して会社から直接発送できるようにしたら、「すぐ手を抜くことを考える!」と大目玉をくらった。

 

 職種からいって、残業せず、自分の時間でマーケティングに力を注げば、売上はもっと伸びたと思う。

 

当時、過渡期でもあり、4,5年で社員も増え、かなり正常にはなった。

 最終、私も同期の男性より部下が多くなったし、ダイエーの社長から社長賞ももらった。どこの会社にも当てはまるわけではないだろうが、最初から過重労働で辞めたり死んだりしたら元も子もない。

 

■「働かぬ女は金持ちの妾」というスローガンでも

■中国人女性の働き方は日本より恵まれていた?

 

 

 やがて中国に出張するようになった。

 

 当時はまだ国営企業の担当社員と仕事をすることが多かったが、当時から管理職にも女性が非常に多かった。

 

 工場などの現場でもそうである。ホテルの部屋で商談するとき、相手の男性が、託児所から連れてきた小さい子どもをその辺で遊ばせていることもあった。

 

 企業の多くが民営になった現在も、日本よりはるかに女性管理職が多いのはまったく同じである。

 

 やはりまだ最高層には多少の男女差があるが、その反動として中間管理職に女性が非常に多い。中国の銀行に行くと、テラー(窓口の係員)は男女半々だが、後ろに座って彼らを管理するのは、女性が多い。そもそも各年代に男性と同じ比率で女性がいる。

 

 また、起業家、実業家も非常に多い。

 

 世界売上No.1エアコンメーカー、格力のトップを長く務めたのは、販売員からたたき上げた60代の女性である。

 

こういうことには歴史があって、中国は1949年の新中国建国後に、毛沢東が女性解放の大号令を出した。

 

 そしてまずやったのが、各単位(当時の企業に代わる所属組織)に、託児所を全部つけることである。女性に外で仕事をしてもらうなら、それはいる、という非常に当たり前の判断である。

 

 しかも預ける時間が、保育園でも1週間単位である。

 

「えーっ!なんかさみしくないですか?」と驚いたら、「全然。仕事できていいですよ」と答えた北京大学の80代の女性教授がいたが、ま、とにかくやった。

 

 

「働かぬ女は金持ちの妾」とまでの人格否定の極端なスローガンを掲げるのが中国だが、今、80代、90代の女性でも若い時は、基本、有職である。

 

 ちなみに私の実家の会社でも、女性オペレーターがいて、会社の一室を託児所のようにしていた。私は小学校から帰ったら、そこで過ごすこともよくあった。

 

 1970年代の当時から、大阪市内では託児所不足が言われており、建国時の混乱下の中国や、昭和の大阪の中小企業にできたことが、日本全体で未だ解決していないとは、要するに「日本は女性活用に本気ではないんだな」と思ってみている。

 

 人手不足で、その分、女性が自分たちで無理をして都合をつけ、適当に社会に出てきて低賃金で働いてくれと。「なら、働かない」と専業主婦が“世捨て人”になるのは、わかる気がする。

 

 日本で女性が結婚してからパートでやる仕事は、彼女の学歴や職能レベルにかかわらず、中国で農民工がやる仕事ばかりである(農民工の人、ゴメンね)。

 

 能力があっても上に昇れない差別階層の人口が多いほど、上に乗っかれる階層の生活は快適、と、庶民でもお手伝いさんが雇え、農民工の配達の人が走り回る中国に来てつくづく思った。

 日本は人口の半分がそうだったのである。

 

 

 

 中国も、国営企業の淘汰に伴って、企業保育園はなくなった。

 “国内に植民地がある”といわれるほどの格差で、お手伝いさんが安く雇える、配達等の家事援助サービスが安くて豊富といっても、じゃあ、彼らの子どもは誰が見るの?と、問題は山積みだが、中国男子も料理、家事はうまいし、そもそも家事の要求が日本みたいに高くない。

 仕事ももっとゆるい。だいぶ増えたが、IT系などでない限り、まだ残業も少ない。男性が“家庭の事情”で休んでも誰も何も思わない。

 

 幸せは比べられるものではないが、子持ちのホワイトカラー中国女性は日本よりもっと伸び伸びしているように見える。

少なくとも、旦那に浮気されて、金がない、職がないから、黙っているような嫁さんはいない。男性もケツの一つはまちがいなく蹴り飛ばされる。社会における女性の地位は、ホワイトカラーだと日本よりはるかに高い。

 

 

 中国女性本人たちは、

「中国では、女性は馬車馬のように働かされる」

「仕事のストレス、ローン、子供、もう疲れたよー」

 と、口では言うが、仕事を捨てる気はない。

 

 専業主婦です、というと学歴も能力もないと思われ、富豪の奥さんでも、自分で投資家になり、さらに富豪になる国なのである。

 

 

■日本の男、中国の男

 

 中国と関わって30年、住んで18年目である。

 

 各階層の男女と付き合ってきた。

 

 中国と日本をフラットに比べることはできないが、ただ女性が外で働くことを考えたとき、日中で1番違うのは女性ではなく、男性である。

 

 一言でいえば、日本の男は劣等感がめちゃくちゃ強い。

 

 だからちょっとでもできる女性が目の前に出てくると、「キーッ」というヒスを起こす輩がたくさんいる。

 

 だから、日本の男はあんなに真面目にがんばるのである。それで女性が組織的に出てこられない状況にあるのだ。

 

 

 あと、女性を自分と同じ要求を持つ“人間”と思っているかどうか。

 

 これは中国の男もそりゃ、女も同じだ、仕事(社会における自分の能力の発揮と収入を得ること)もしたいだろう、家庭も持ちたい、と思っているが、日本の男は、「女は女である」と思っている人がやけに多い。

 

 女性を喜ばせたい、幸せにしたいと日本の男性も思ってはいるだろうが、頭の中に、なぜか自分に非常に都合のいい女性像を描いて、それからはみ出ると、「キーッ」となる人が少なからずいる。

 

 今の女性活用も、女性が仕事もやり、それが低賃金で出世しなくても文句も言わず、むしろ“子供がいるから、私、これでいいんですぅ”と自分で言ってくれ、託児所がなくても、女性だけが親を頼ったり自分の過重労働でアクセクなんとか子育てし、なおかつ家事レベルも昔のまま、旦那は何一つ、変わらなくてすむ、……いや、そうしてくれないかな、なんて。

 

 そんなにおめでたいと、国力がますます落ちて、中国に占領されちゃうかもよ。

 

■これから女子は大変になる

■働くことは「人間の嫌な面を見ること」

 

 春、新入社員の季節である。

 

 そして優秀な女性ほど、危ないのが日本の社会である。

 

 

 高橋まつりさんも、東大卒だったからこそ、パワハラを受けたのだと思う。

 優秀な女性がダメ上司に回されて、つぶされていくのをただ眺めているだけの風潮が日本にはある。

 

 なのに、今までの女性向け“生き方指南書”は、結局、「女子力」で、つまり結局は「お○○○力」で“男からトクを取れ”、というものばかり。

 女に癒し系に扮した略奪系になれという。

 

  

 その過重労働は誰の手柄になるか。

 

 パワハラを受けていないか。

 

 性的暴行を受けたことを名乗り出た伊藤詩織さんの件ではないが、セクハラは単純な性欲ではなく、支配欲と相手の立場を見てやる卑劣さが入り混じったものであることは、父親の方がよく知っているだろう。

 

 両親は社会人の先輩として、アドバイスと見守りはできるのではないだろうか。

 

 「働く」ということは、「人間のどうしようもなく嫌な面を見る」ということ。

 

 と、同時に「自分の自信をつけていく過程」でもある。

 

 “いや、うちの娘にはそんな世界を見せず、いい男にお嫁にやってそれが幸せ…”という時代は、もう日本に二度と来ない。

 

 これからの時代、幸せを比べるのは“隣の奥さん”ではなく、“隣の国の奥さん”なのである。

 

 

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